◇サツキの花言葉
「私は妹が嫌いだ。妹は自由奔放で私とは正反対。彼女は美容師になるといって高校を業すると一人で東京に出ていった。私は父と二人地元に残され、地元の中学校で国語を教えている」
「妹が家に連れてくる彼氏に会うのは苦痛だった。彼らは私の家で遠慮というものをしなかった。妹に言わせると素でいられるのが楽らしい。さすがに彼らは玄関で靴は脱いでいたが、心にはいつも土足で上がり込んで来た。知りもしないくせにお母さんのことを聞かれるのはなによりも苦痛だった」
「私にも今彼氏がいる。同じ中学で教えている音楽教師だ。彼は一緒にご飯を食べる時も私の食べたいものを優先してくれる。彼氏の誕生日に彼の好きなものを食べようと提案したら困った顔をして「僕は特にないから、さつきの食べたいものでいいよ」と言われた。私が食べたいのは、あなたが食べたいものなのに」
◇おしゃべりな羊
「私はお姉ちゃんが苦手だ。お姉ちゃんはいつも優等生だった。私が小2でお母さんを亡くして泣いていた時もお姉ちゃんは泣かなかった。まるで泣くことが悪いことのように、口を真一文字に結んでこらえて私を責めた。あの時、私はお姉ちゃんと一緒に泣きたかったのに。私が「東京に行きたい」って言った時も「メイがそうしたいなら」って応援してくれた。きっとお姉ちゃんは好きなことをするより、我慢することで人に褒められることが何より好きなのだ」
「お姉ちゃんの最初の彼氏は大っ嫌いだった。お姉ちゃんが大学2年の時の彼氏。吹奏楽の先輩だったらしいけど、いつも玄関で「メイちゃん、さつきさんはいるかな?」ってヘラヘラしてた。一度シュークリームをお土産にくれて私が喜んだら、毎回買って来るようになった。それも四個。そういう所が大嫌いだった」
「私の彼氏は東京で知り合った29才の美容師。話は面白いし、オシャレだし、カッコいいし。でも、いつも携帯を見てる。たぶん、私を見てるより携帯を見てる時間のが長いと思う。ちらっと見えたLINEにはハートマークが並んでた。丸の代わりにハートを使うような子。きっと私より年下だ。」
◇サツキの花言葉
「付き合って3年になる彼氏が家に来ることになった。旅行帰りに彼氏が車で送ってくれた時、父が彼を見かけたらしい。父は「今度、あの人さ、家に連れてきなよ」とボソっと言った。彼氏に伝えたら嫌がっていたけど「メイちゃんが一緒なら」と渋々承諾した」
「メイは夏休みで家に帰って来てた。彼氏が家に来ることを伝えたら「まぁ、お姉ちゃんもそういう年だもんね。そういえばあの色白な彼氏、少しお父さんに似てるかもね。お父さんよりももっと頼りない感じだけど」と憎まれ口を叩いた。ほんっとに可愛くない」
「私もいつかは結婚すると思ってた。でも今の彼氏がダンナになることが想像つかないし、なにより彼が私にプロポーズする姿が全然イメージつかない。おそらく彼は何も考えていない。基本的に事勿れ主義なのだ」
◇おしゃべりな羊②
「なぜかお姉ちゃんの彼氏に会うことになった。せっかくの夏休みなのにとも思うけど、地元の友達と飲むのも飽きてきたし、イベントとしては面白いかも。お姉ちゃんを大好きなお父さんがどんな顔をするのか見て見たい気持ちもある」
「お姉ちゃんの彼氏は、自分からは話さないし、質問もしない。基本的には音楽にしか興味がないんだと思う。私は「好きな音楽を作った人はどんな人なんだろう」って思うけどあの人は違うのかな。クラシックが好きらしいからモーツァルト?ベートーベン?とか、頭がクルクルしてるイメージしかない。やっぱ私もそんな興味ないや」
「私は今の彼氏とは絶対に結婚しないだろう。彼氏は自分にしか興味がないんだと思う。彼氏の頭の回転の早さや、美容師としての才能は尊敬してるし、そこに惹かれたのはわかってる。でも、彼氏がなんで私と付き合ってるのか、私にも、そして彼氏にもわからないはずだから」
◇メインディッシュ①
「彼氏は約束の2時にきた。私はお昼を一緒にと提案したのだけれど「お父さん達に迷惑がかかるから」と断られた。父は朝からそわそわしてたけど、メイはペディキュアを塗りながらポテトチップスを食べていた。メイと違い私は化粧があまり好きではなかった。なんとなくべたつく感じが嫌だった」
「彼氏は今日はシュークリームでなくケーキを買ってきてくれた。でもなぜかショートケーキ五個。「君ももう一杯どうかね」「お義父さんありがとうございます」なんてお酒を酌み交わすのを想像してたけど、紅茶を淹れながら全然違うなと可笑しかった」
「お父さんも彼氏も無口だからどうなることかと思ったけど、メイが色々彼氏に質問してくれた。出会った経緯だとか、どんな音楽が好きなんですかとか。妹が「モーツァルトって下ネタが好きなの?」と聞いたら彼氏は「そうらしいね」と答えてその会話は終わったけれど」
◇メインディッシュ②
「4人の会話は続かなかった。最後の方はメイも諦めていたし、1時間が経った頃から彼氏も帰りたいようなそぶりを見せた。「そろそろ…」と私が言いかけたとき、父がおもむろに口を開いた。「君はさつきのどこが好きなんだい?」」
「彼氏は咄嗟に答えられなかった。おそらく想定問題になかった質問なのだろう。しばらくの沈黙の後「そうですね…。しっかりしてる所ですかね」と答えた。その時父は少し寂しそうな顔をしていた。私が彼氏に弱みを見せていないと思ったのだろう。私は「そこ?もっとあるでしょう、もっと」とおどけて見せた。彼氏は「優しいところかな」と不安そうに答えた。」
「彼氏が帰ったあと食器を洗っていると、父が「ディナーを食べに行こう」と言った。いつものあの蕎麦屋だ。父はいつものもり蕎麦を、メイは冷やしタヌキを頼んでいた。私は親子丼を頼んだ。いつもメイは食事中でも携帯をいじっていたけど、今日は一度も見なかった。父は食べ終わると蕎麦湯を頼んだ。」「蕎麦は蕎麦湯を飲むまでが蕎麦だ」と誰にいうでもなく話した。ゴールデンウィークが終わるとまた、仕事が始まる。授業中問題集を解いてる子、寝ている子、隠れて携帯をいじっている子。そういえば父は祖父にお母さんの好きなところを何て答えたのだろう。聞くこともできないまま27回目の五月はあっという間に過ぎて言った」
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